トンランジスタ・ラジオ
屋上が好きさ
はっきり言って憧れた。
授業をサボって、陽のあたるとこにいるってことに。
トランジスタラジオは持っていなかったが、俺の内ポケットのMDプレーヤーからはいつも君の知らないヒット曲が溢れていた。
音楽を好きだという気持ちが迸り、その気持ちに胸が焦がされていけばいくほど、憧れを抑えきれなくなった。
高校1年生、授業をサボって、俺はキヨシローに近付くことにした。
体調不良だとかいって教室をそそくさと抜け出した。
水泳部の友達にお願いをして、屋上のプールへと続く、非常階段の鍵を開けておいてもらった。
報酬はコンビニのリプトンのミルクティーで十分だ。
屋上のプールサイドから柵を乗り越えて、なにもない、ただ空だけが広がった屋上へ飛び出した。
よく分からない開放感に包まれてなんとなく裸になった。
おもむろに寝っ転がってMDプレーヤーをそっと再生した。
木枯らしに抱かれて、俺が口ずさむホットなナンバーは確かに空に溶けてった。
Embroidery：今菜津美
text:こすげ