DON’T TRUST OVER THIRTY
カラオケルーム歌広場で友達がしきりに叫んでいる。
マイクを鷲掴みにして、ソファーの上でのたうち回る。
テーブルの端に置かれたコップにマイクの配線がひっかかり、コップが倒れた。
床にだらだらとメロンソーダがこぼれていく。
掃除が行き届いていないフロアにたまった髪の毛に、炭酸がまとわりつく。
底の薄いコンバースの靴の裏で何度も何度もその液体をペチャペチャと踏んだ。
モニターにはカタカナで、「ドント トラスト オーバー サーティー」という文字が映し出されていた。
30歳にはとっくになってしまった。
30歳とはもっと大人なもんだと思っていた。
大人はなんでも知っていると思っていた。
感染症の流行で世界中が混乱の中にいる。
世界中の人々の将来がボヤけていく。
相手の姿も先も見えない戦いがいつまで続くのだろう。
洗濯物を干していた家の屋上から夕焼けを久しぶりに見た。
いつもと変わらない夕方の風景に少しほっとした。
「いつの日にか僕らが心から笑えますように」
身を切られるような思いだ。
Embroidery:今菜津美
text:こすげ