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2021.07.26

Analisa.

なにを隠そうこのレコードは妻に初めて贈ったプレゼントである。

当時、妻はまだ10代で僕もまだ20代前半だった。
もう10年以上昔、まだ結婚したり、付き合ったりする前の、初めて出会った頃の話だ。

ツアーで青森から来ていた妻のバンドと僕のバンドは対バンすることになった。

その日は楽屋でジョンライドンの話しばかりした。
僕はこのレコードを彼女にプレゼントしたい気持ちで胸がいっぱいになっていた。
レコードを人にあげたいという謎の感情、そんなのに喜ぶ人間は限られている。

P.I.L.のレコードはずっと欲しくて、やっと手に入れたばかりのものだ。
レコードは欲しけりゃいつでも買えるもんじゃない、やっと巡り合ったのだ。
だから、それを人にあげるのかと思うと少しばかり寂しい気持ちになった。

なんてたって出会ったばかりの人なんだから。

ただ、熟考の末、僕は彼女にレコードをプレゼントすることにした。
貧乏学生とは思えない心意気である。

だから、せめて今僕の家にある内は、毎日このレコードを聴こうと思った。

正直このアルバムは聴き飽きるくらい何度も聴いた。

彼女の他のバンドメンバーにも適当にDEEP PURPLEとかのレコードをあげた。br>
カモフラージュ、そしてお茶を濁す方針を採用した。

今考えれば、周りのメンバーには全部見透かされていたと思う。
ただ、自分はこんなことなんてなんてことないよ、みたいな顔をするので必死だった。

その日は荒川の土手を当方もなく、ずっと自転車のペダルを漕ぎ続けた。
照れ臭さで焼けた頬を夜風で冷ましたかった。

今、このレコードは僕の家にある。
僕らの棚の中にある。
ジョンライドンのかったるい歌声が今日も僕らの部屋で流れている。

Embroidery:今菜津美
text:こすげ

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